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2019.01.10
マクラメとは
装飾的なマクラメによって緻密にくくりつけられているのは、ターコイズやアメジスト、ラブラドライトといった天然石。柔らかい光を放ち、どこか不思議な力が宿っているようなアクセサリーの数々は、「il3usion(イブシオン)」を主宰する井伏智美さんによって生み出されたものだ。特定の師匠を持たず、様々な人との出会いのなかで技術を磨いてきたという井伏さんは、いかにして作家として身を立てるようになったのか。
マクラメ
紐を使ったレース編みの一種で、フランス語で「macramé」と書く。装飾の組紐や房を意味するアラビア語「miqrama(ミクラマ)」とトルコ語でタオルを意味する「makrama(マクラマ)」に由来するといわれる。紐や糸を結び合わせて装飾的な幾何学模様をつくり、天然石や装飾品などと組み合わせてアクセサリーやベルト、クロス、バッグなど様々なクラフト雑貨がつくられる。
ライター 大矢幸世

自分なんか、とあきらめていた

「ずっとものづくりに憧れていたんですけど、自分なんかができるもんじゃないって、思い込んでいたんです。何だか、おこがましくて」。そう控えめに話すのは、ウッドアクセサリー作家の井伏智美さん。木工とマクラメを組み合わせたウッドアクセサリーブランド「il3usion(イブシオン)」を主宰し、百貨店やクラフトマーケットなどで販売している。井伏さんがモチーフにしているのは、イヌワシやクマタカなどの猛禽類たち、そしてネイティブアメリカンやアイヌ文化由来のトライバル(民族調の)デザイン。どのアクセサリーにも自然を生きる力強さとしなやかさが感じられ、生命力に満ちあふれている。
「昔から民族的なものに心を惹かれて、自分でも模様を描いてみたりしていたんです。いろんな国々に様々な民族が暮らしていますけど、風や水紋、山など自然をモチーフにした文様はどことなく似ていて、源流をたどれば同じところにつながるような気がするんです。きっと大陸と日本がつながっていたときには、人の行き来があったんだろうなぁって」
ワシの風切り羽や爪などを手元に置いて、観察しながら木材を切り出し、形を彫り出して、ヤスリをかけていく。「できるだけ本物に近づけたいんです。『この羽で空を飛べるかな』とか、『この爪で本当に狩りができるかな』とか、本気で考えながら形をつくっていく。ヤスリをかけていると、どんどんツヤが出て美しくなっていくんです」

木工に使う木材は、アフリカンブラックウッドやキングウッド、チューリップウッド、チンチャンなど、硬質で密度の高いものを使っている。心材(幹の芯の部分)と辺材(幹の外側部分)で色が異なるため、接ぎ木せずとも独特の模様となってアクセサリーのアクセントになる。

人との出会いが
切り開いた職人への道

井伏さんがウッドアクセサリーをつくり始めたのは5年ほど前。当時、勤めていた職場での配属がきっかけだった。ホームセンターの資材売り場の木や金属などの素材や工具担当として働いていた井伏さん。欠員が出たことをきっかけに、元々興味のあった木材担当として働くようになったのだ。「父親の実家が広島県の山あいで材木業を営んでいたんです。小さい頃、帰省のたびに木を扱っているところを見ていて、遊びで木をくり抜いて彫刻したりしていました。父親も仏具をつくっているのですが、見事に龍を彫り上げたりして・・・すごいなぁ、って。いつか木を取り扱えるようになれたらいいな、と思っていたんです」
資材売り場には、ものづくりに携わる作家や愛好家などが数多く集まり、スタッフたちもまたものづくりが好きな人ばかりだった。「みんなからいろんなものづくりを教えてもらって、できたものを持ち寄り合って、『次はこんなイベントがあるから出店しない?』って誘ってもらって……『自分にものづくりは無理だ』って思い込んでいたのが、だんだん『自分にもできるかも』って思えるようになってきたんです」。職場の同僚に誘われて初めて出店したクラフトマーケットでは、木のサイコロをつくって売り場に並べた。「本当に簡単なもので300円だったんですけど、1つ買ってくれる人がいて、すごく嬉しかったんです。そこから少しずつ発展していきました」
初めてつくったウッドアクセサリーは、イヌワシの爪をモチーフにしたペンダントだ。知人から、今となっては入手の難しいイヌワシの手爪を見せてもらった。その日のうちに夢中になって型を取って、見よう見まねでつくり上げた。「それがこうして今、仕事になっているなんて不思議ですけどね。でも、昔から遠くに目標を置いて向かっていくことが苦手で。いろんな人と出会って、『それ面白そう!』と思ってやってみたり、少しずつ難易度の高いことに挑戦してみたり・・・。そうやって、ひとつひとつクリアしていったほうが、どこへ行くかはわからないけど、うまくいくような気がするんです」

イヌワシの風切り羽根をモチーフにしたペンダント。木の本来の風合いをそのまま活かし、接ぎ木や染色は一切しない。「削っていると、本当に飛んでいきそうな感覚になるんです」

木工細工から発展して、マクラメやレザー、天然石などを組み合わせるようになったのも心の赴くまま、人との出会いが活かされた結果だ。「職場ではワシに詳しい人、インディアンジュエリーに詳しい人にも出会って、それぞれいろんなことを教えてもらいました。マクラメの技術にもそんなときに出会ったんです。『これで木をもっとカッコよくしてあげられるかも!』って、技術を覚えて。それに元上司がレザー作家で、今も一緒にコラボレーションして簪(かんざし)をつくったりしているんです。木には木の、天然石には天然石の、革には革の良さがあって、それぞれに個性がある。それらを組み合わせることで、より良いものが生まれると思うんです」

人に勇気を与えられるアクセサリーを

首都圏での拠点を求め、群馬県へ移り住んだのも心の赴くまま直感的に決めたことだったという。「単純にいろんな条件が合う所だったので選んだんですけど、住み始めてわかったのは、桐生はとてもものづくりに由縁のある土地だということ。有鄰館(ゆうりんかん)ではよく作家さんの展示会が開かれていますし、みなさん、地元で培われてきた文化を維持していこうと取り組んでいらっしゃいます」。最近では、桐生市本町にある「天然染色研究所」に通って、草木染めや織物を学び始めた。「元気なおじいちゃんが丁寧に教えてくださるんですよ。『桐生』って書かれたTシャツを着て(笑)。今はマクラメに市販のポリエステル糸を使っているんですけど、自然素材で染めた絹糸を使えるようになれば、また作品の幅も広がるんじゃないかと思うんです」

まるでイヌワシのくちばしと羽根の色合いを合わせたように、絶妙なグラデーションを描いている木目模様。木材に直接大まかな図案を描いてから電動糸ノコギリで切り出し、ルーター(切削工具)でモチーフを形づくっていく。

屋号の「il3usion(イブシオン)」は、スペイン語で「楽しみ」「夢」という意味の「ilusión(イルシオン)」という言葉に、自身の名前と好きな数字「3」を合わせた造語だ。「本当に、最初はただ『木が好き』ってところから始まったんです。木を削っていくと思わぬ模様が浮かび上がったり、色が変化したり・・・ワクワクしながらどこまでもやり続けられる。でも、アクセサリーをつくるようになって、想像以上にみなさんが何かの願いや思いを込めて、お守りのように身につけてくださることを実感したんです。『いつか、このアクセサリーが似合うような女性になりたいです』って、インスタグラムに書いてくださった方がいたんですけど、思いきって身につけたら、意外としっくりくるんじゃないかな。身につけることで自然と勇気づけられたり、力が湧いてきたりする。そんなアクセサリーをつくっていきたいなと思います」

マクラメに使っているのは、ブラジルのLinhasita(リーニャシータ)社のワックスコード(蝋引き紐)。ワックスコーティングが施されているため、加工しやすく、結び目や編み上がりも綺麗に仕上がる。発色も豊かで、木工や天然石とのバランスを見て、感覚で色を選ぶという。
はしご編みは、マクラメの技法のひとつで、チョーカーやブレスレットなどに応用される。8本の紐を台座に固定し、両端から4の字を書くように結び目をつくる。「紐さえあればどこでもできるようになるので、最初に覚えるにはぴったりのテクニックだと思いますよ」

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