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2017.4.13
漁港がある日本の村や町には、漁船が大漁で港に帰るとき、浜で待つ人々に大漁を伝えるため大漁旗を揚げる習慣がありました。鯛や鶴、亀などの絵柄をあしらった色鮮やかな大漁旗は、地域の暮らしが潤う吉報として誰もが待ちわびる存在だったに違いありません。神奈川県で唯一、今も大漁旗を作り続ける三富染物店にお邪魔し、六代目・三冨實仁(じつひと)さんと、息子で七代目の由貴(よしたか)さんの制作現場を見せていただきました。
ライター 盛林まり絵

天保4年から180年以上続く老舗染物店

三富染物店の歴史を教えてください。

横須賀市の図書館で、私の家業に関する記述がある天保4(1833)年の古文書が見つかったので、創業はその年としています。

うちの過去帳を調べるとさらに200年ぐらい前から染物をしていた事実はあるのですが、公的な記録でわかる範囲では天保4年です。

私が継いでからは50数年、倅は大学を出てから始めたから15年です。

江戸時代には当主が代々「實右衛門(じつえもん)」を名乗る決まりがあったようです。天保4年の實右衛門から数えると、父が六代目、私は七代目になります。江戸時代は幕府の御用職人として、いくさの幟や藍染めの半纏などを染めていました。その後は大漁旗を作るようになり、今はお客さんからの要望に応えて結婚や子どもの誕生・節句、還暦・古希などの祝い事に使う飾り旗も手がけています。

どのように制作されているのですか?

気候に合わせて粘度を調整しながら、もち米とぬかを混ぜて糊を作ります。その糊を先端に金属の筒をつけた絞り袋に入れ、下絵の上に絞りながら糊を置いていく「のりおき」をします。その後、乾燥させたものを染め、お湯につけて糊を洗い流し、また乾燥させ仕立てます。糊が防線の役目を果たし、染めた後にそこだけが白い線になって残るんです。

一番難しいのりおき・・・・は父が行い、私が染めています。糊の案配が悪いと旗の裏から色がさしてしまい、使い物にならなくなってしまうんです。私も15年やっていますがまだまだです。染料と顔料を混ぜたもので染めていて、染料屋さんによって色が微妙に違うので色によって仕入れ先を変えています。下絵描きと縫製は母の担当で、一家全員で作っています。

大漁旗を作る職人は減っているのですか?

のりおき・・・・の技術が難しいため、引き継ぎがうまくいかずやめてしまうお店が多いようです。同業者は日本全国で多分20軒ぐらいじゃないでしょうか。神奈川ではうちだけです。注文は北海道から九州まで日本全国から来ますよ。年間大体500、600本ぐらい作っています。

後継者はいますか? ご結婚は?

早く結婚しないととは思っています(笑)。それよりも、家族だけでやっているので忙しいときは手が足りなくて。

技術を学びたい、手伝いたいという人が来たら受け入れ可能ですか?

そうですね。今まで来たことはありませんけど(笑)。

飾り旗はデザインも使い方も自由

大漁旗のデザインに決まりはありますか?

大漁旗は新造船を祝い、大漁と航海の安全を願って周囲の人が贈るものなので、鯛や鶴、亀などお目出度い絵柄がよく使われます。文字は「祝」「大漁」と「船名」を入れます。旗の生地は反物なので基本サイズは幅90センチに決まっていて、横は150センチですが、横はいくらでも長くできます。マグロ漁船の場合だと縦に三つ継ぎ合わせて2メートル70センチ、横は4メートルぐらいのたたみ八畳分ほどのサイズです。新しい船ができれば一隻につき最低でも20、30本は作ります。最近は大漁旗というものをよくわかっていない人が作っているのかもしれませんが、柄が多すぎるものを見かけます。用途を考えると大漁旗は遠目がきかなくてはいけないんです。そのためにはシンプルでなければ。

大漁旗と飾り旗はどのようなときに使われるのですか?

大漁旗は元々大漁で帰港する漁船が遠くの陸まで大漁を知らせるため、船上に掲げて使われていました。あとは新しく船を造ったときと、お正月、お祭りですね。大変な思いをして船を作るわけですから、使わないときも大切に仕舞っていると思います。
祝い事のための飾り旗では、お子さんの名前と誕生日を入れた誕生祝いとお節句の旗は人気があります。男の子向けに金太郎や鯉、女の子向けにはかぐや姫、おひな様などを作っています。結婚祝いの旗などもありますよ。

変わった注文がくることはありますか?

名前入りで「嫁募集中」という旗の注文がありました。友人達が冗談でつくったのだと思いますけど(笑)。ミュージシャンのライブで振る旗、甲子園出場を祝う旗、新郎新婦の似顔絵を入れた結婚式の祝い旗も作りました。のりおきをするので白い線が入るという制約はありますが、それ以外は自由に作れますし、使い方も自由です。

気持ちを込めて手で作ることに意味がある

パソコンや機械を使った印刷技術を利用する予定は?

ないですね。やはりうちはのりおき・・・・という技術を使い、全てを手作業でやることに意味がありますから。一つひとつ気持ちを込めて作るのが大事なんです。それを外してしまったら終わりだと思います。二つとして同じものはない一品物だからこそ、うちに来てくれる人が多いんだと思っています。

三浦市では人口減少が問題になっていますが、地域の未来に対する想いは?

染物屋という特殊な商売だからこそ人が呼べる部分もあるのではないかと思っています。そうした想いも含めて、新たにデザイナーさんとコラボして大漁旗の絵柄を生かしたお土産用手ぬぐいを作ったり、伝統技術が体験できるワークショップを行ったりしています。

今後の目標、展望は?

自分がひととおりの仕事をできるようになり、一つひとつ丁寧に作っていくことが全てです。お客さんの要望にはできるだけ応えていきたい。今までより絵のセンスが問われてくるところは大変ですね。まだまだ「大漁旗は漁師のもの」というイメージが強いので、もっと一般的なものにしたくて先ほどお話しした「ミニ大漁旗染付体験」も行っています。お子さんの夏休みの自由研究や家族旅行の記念などで、楽しんで体験していただければ嬉しいです。

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