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2018.2.16
セルロイド玩具とは
大正から昭和にかけて日本では様々なセルロイド製品がつくられ、1937(昭和2)年には日本のセルロイド玩具生産数が世界一位となって外貨獲得に大いに貢献していた。セルロイド玩具工場が多数集積し、セルロイドの本場といわれていた東京都葛飾区に、1947(昭和22)年に創業したのが平井玩具製作所だ(後に足立区に移転)。現在、日本で唯一のセルロイド人形師といわれる平井玩具製作所の二代目・平井英一さんを訪ねた。
ライター 盛林まり絵

セルロイドが廃れた時代に、古い人形の金型が見つかった

1946年生まれの平井さんは、物心がついた頃からセルロイド玩具をつくる両親を見て育った。平井玩具製作所では人形やお面、祭りで販売する玩具などをつくっていたという。しかし発火性の高いセルロイド製品の火災事故を受け、1955(昭和30)年にアメリカで可燃性物質規制法が成立。日本製セルロイド玩具の輸入が全面禁止となってしまった。これを機に世界的な需要も減少に転じ、1965(昭和40)年頃からはプラスチックや塩化ビニールへの移行も進み、セルロイドは下火になっていった。だが平井さんは、父・才一さんとともにセルロイド製品の製造を続けた。「同業者はみんな辞めちゃったし、うちも人形はやめていたんだけど、たまたま熊手に飾る招き猫や鯛、金魚などの縁起物を扱っていたから需要があったのね。だから続けてこれたんです」
また、当時は成型、彩色、組み立ての3工程が分業化され、特に成型は外注に出されることが多かった。そのため成型担当の事業所が辞めてしまうと、他の工程を担当する事業所も廃業することが多かったという。平井玩具製作所は成型に必要なプレス機を所有し、全工程を自社で行えたことも、事業を継続できた理由のひとつだ。
しかし需要減による材料費の高騰が続き、1998年頃には、いよいよ縁起物も製造中止することに。ところがほぼ同時期に、おもちゃコレクターとして有名な北原照久氏から、ミッキーマウス生誕70周年を記念するセルロイド人形の注文が入った。完成品の出来映えを親子で語り合っているうちに、才一さんが「そういえば、うちにも昔の人形の金型があるぞ」と何十年も仕舞ってあった金型を出してきた。それが、今に続くセルロイド人形づくりの始まりであった。

復刻したセルロイド人形が、次第に評判となり大人気に

セルロイド産業において、金型は問屋がつくるものであり、平井玩具製作所のような加工屋がその金型を借りて成型し、商品をつくるのが通常の流れだったという。銅と錫の合金でつくられる金型はしばらく使ったら溶かして新しく作り直すため、昔のものが残っていることはほとんどない。何十年も前の人形の金型が残っているのは、奇跡的なことだった。
しかし人形用のセルロイド生地は既に手元になく、注文すると高額の費用がかかるため、すぐに金型を使うことはなかった。だが、数年経ってもつくってみたいという想いは膨らむばかり。そこで平井さんは2002年に、思いきって生地を新たに発注。その生地を使って、玩具づくり60年の才一さんが命を吹き込み、セルロイド人形「ミーコ」が蘇った。
当初は販売するつもりはなかったが、前述の北原氏に見せたところ、販売を勧められた。ブリキやセルロイドの玩具が骨董品として再評価される時勢もあり、平井さんは販売に挑戦してみようと、イベントやデパートの展示会などに出店。自らウェブサイト「セルロイド・ドリーム」を立ち上げ、インターネットでの販売も開始した。レトロな可愛さが次第に評判となり、一時は大変な人気だったという。現在は忙しさも落ち着き、注文に応じた製造・販売を続けている。「インターネットの普及期と人形をつくった時期が重なったから売れたんですね」

大量生産品では出せない手づくりならではの味

現在セルロイドは、日本の機械を中国に持ち込み、現地で生産されている。平井さんは人形の材料になる板状のセルロイドを150枚単位で中国から購入しているが、プラスチックの何倍もの費用がかかる。「材料自体の値段が高いから、人形もどうしても高くなっちゃうんです。金型も1型つくるのに100万円ぐらいかかるから、人形の場合は胴体と手と足の3型で300万円ぐらい。そうしたら人形一体が万単位ですよ。ミーコはたまたま昔の型があったから、一体3500円で販売できるんです」
ミーコは昔ながらのやり方でつくられる。まず金型を加熱して内側に石鹸水を塗り、裁断した板状のセルロイドを挟んで成型専用のプレス機にかける。挟んだセルロイドに蒸気を入れて柔らかくし、空気を注入。金型全体に水をかけて冷やしたら、1型で12体分ができあがる。金型から外してパーツごとに先が細い花鋏で切り離し、細かい部分は小刀で削り、形を整えていく。髪はエアブラシ、顔と足は絵筆を使ってラッカーで彩色し、手足のパーツを胴体にゴムで留めたら完成である。顔は手描きなので一つひとつ表情が違い、趣きがある。「やっぱり手づくりだからやりがいがあって、仕上げの顔を描くときが一番楽しい。表情が出てくるからね。完成した人形は自分の子どものように可愛いです」
完成品には独特の光沢があり、手触りはプラスチックほど硬くなく、温もりを感じさせる。そして驚くほど軽い。「プラスチックは石油からできているけど、セルロイドは綿(ニトロセルロース)と樟脳の合成なんです。素材が全然違うの」

趣味のように楽しみながらやっているから続けていける

ミーコを蘇らせた才一さんも今は亡く、セルロイド人形をつくるのは、日本で平井さん一人になってしまった。しかしミーコのお陰で多くの人形愛好家の方々とのご縁が広がった。人形愛好家の方々に洋服の製作を依頼し、愛情溢れる服を買い取ることで、様々なバリエーションが成り立っている。「皆さん、趣味でやってくれてるの。商売としてやってたら続かない。私も今は趣味でやってるようなところがあるからね。楽しみながらやってるから続いてるんですよ」
10代、20代の若い世代はセルロイド自体を知らず、イベントでもあまり興味を持たないそうだ。だが、イベントでミーコの顔を描く彩色体験を開催すると、多くの人が集まる。ときには弟子入り希望者が訪ねてくることもあるという。「そういう人には前向きな話をしてあげたいんだけど、自分の経験からすると、新しい金型をつくるにも大金がかかるし、販売も大変だから、この先、商売として新たにやっていくのは難しい。私は子どもの頃からやっている仕事で、愛着があるから続けているんです」


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