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2017.11.30
ネギ(葱)とは
日本の食料自給率(カロリーベース)は現在約38%で、先進国の中で最低水準である(2016年農林水産省の試算より)。日本の農業を取り巻く状況は厳しいが、食の安全、就農への関心は高まっており、新規就農者の数は年々増えている。時代の要請を先取りするように、山形県天童市から農業の魅力を今までにない形で発信しているのが、「ねぎびとカンパニー」だ。動画配信、イベントの主催なども積極的に行う代表の清水寅(つよし)さんにお話を伺った。
写真 菅原一剛      ライター 盛林まり絵

新規就農者として、最短でネギの作付面積日本一を達成

現在37歳の清水寅さんは、1980年長崎生まれ。両親が映画『男はつらいよ』のファンだったため、主人公の名にちなみ「寅」の漢字を使い、「つよし」と名付けられた。高校卒業後に就職した商社では敏腕ビジネスマンとして活躍し、20代で関連会社のゴルフ場やホテルなどの社長を務めた経歴をもっている。
転職したきっかけは、親類から農業の厳しい状況を聞かされたことだった。「農業の元気がないなら俺がやる!」という想いで仕事を辞め、2011年に妻の出身地である山形県天童市に移住した。
やるからには日本一になろうと、素人でも「質より量で勝てる野菜」として、ネギの栽培に挑んだ。何もない状態からスタートし、土地の確保や農作業に明け暮れ、睡眠時間は1日2時間。慣れない作業のやりすぎで手の骨は疲労骨折し、眠ればネギの夢を見る。寝ても起きてもネギの日々が続いた。
ネギづくり名人の師匠から教わった技術を踏まえた上で独自の栽培方法も編み出し、ネギの気持ちになって考える栽培者として「初代葱師」という肩書きもつくった。自らスーパーなどに赴いて取引先を開拓し、販路を拡大した。こうした努力の結果、わずか2年でネギの作付面積5.4haを達成し、新規就農者として最短での作付面積日本一を実現した。2014年には株式会社の「ねぎびとカンパニー」を設立。現在は30代から60代の社員25名とともに、ネギを中心にほうれん草やかぼちゃ、キャベツなども手がけている。

野菜が駄目になったら受け入れて自分の技術を磨くしかない

農業を始めてみて予想外だったのは、農業自体の楽しさだったという。「最初はビジネスモデルとして試算して、いけると思ったから始めたんです。ところが始めてみたら……利益度外視になってしまって。とにかくワクワクして、楽しいんだよね。畑にいると疲れがとれるんです。気持ちいいの!」
楽しいからこそ、のめり込んだ。自分にしか作れないネギを目指して土づくり、肥料づくり、種まき、土寄せなど様々な工程に工夫を凝らし、栽培方法を理論化した。「ねぎびとカンパニー」のネギは、一般的なネギより葉の枚数が多く肉厚で、全体が太いのが特徴だ。糖度は果物より甘い21.6度。甘さだけでなく、体が欲する美味しさに満ちている。
ネギ栽培のひととおりの技術が習得できるまでに、最低5年は必要だという。毎日畑をまわり、社員とともに働きながら技術指導している。社員達はプロフェッショナルとして育っており、その表情は明るい。60歳以上の人には希望に応じた出勤時間を設定して働くことを楽しんでもらい、繁忙期にはしっかり手伝ってもらうという方針だ。社員のなかには、前職で人間関係がうまくいかずに辞めた人、精神的に弱って転職してきた人もいるそうだが、「ねぎびとカンパニー」ではそれぞれの能力に応じてしっかり働いていると胸を張る。「人間相手の仕事は揉めることも多いけど、野菜相手に揉めることはないですから」
さらに、農業をすることで「受け入れる能力」が身に付くという。「俺らの商売は生き物、自然が相手なので、何が起きても受け入れるしかないんです。全滅しても、逆に良くできても。人間相手なら機嫌をとることもできるけど、野菜はそうはいかない」

山形の農業を元気にしようとユニークな発想で情報発信

自社の元気だけでなく山形の農業を元気にしたいという想いから、持ち前の明るい性格とビジネスマンとしての経験を活かして、様々な活動も実施している。フェイスブック動画「ねぎびとTV」の配信や、若く熱い農家の4人で結成したグループ「山形四天農」によるテレビ出演、ネギをテーマにしたイベント「東北一の葱フェス」の開催など、今までにないユニークな発想で幅広い世代に向けて農業の魅力を発信中だ。
「就農人口を増やすことが目的でも、突然『農業をやりませんか?』っていうのは、出会った初日に『結婚してください!』っていうぐらいキツいと思うんですよ。まずは相手を知って、友達からとか、順序があるじゃないですか。同じ様に、まずは農業を知ってもらうために遊んで、楽しい、面白いって思ってもらわないと」
将来的には東京で働く場合の平均的な時給よりも農業の時給を上げ、時給1500〜2000円ぐらいにしたいという希望がある。そして、農業においてイチローのような一億円プレイヤーが沢山出てくれば、農業をやろうという人が集まって来ると考えている。
また、農業の健康面にも注目している。「お笑いの分野でいえば笑うことが体にいいと証明されているように、農業とほかの職業の従事者を比較した細胞活性化率の違いなどがわかればいいんですけど」

農業は最高の職業だから誇りを持って欲しい

今後の夢や目標は決めたくないが、やはり会社の未来が頭に浮かぶ。「社員が1000人になっても家族のように、社員もその家族にも飯食ってけよって言えるような会社にしたい」といい、『男はつらいよ』の主人公・車寅次郎のような昭和の人情を感じさせる。
全社員用にお米や野菜を作り、無料で渡しているのも、家族のように社員の面倒をみたい気持ちの表れだ。

清水さんは社員に求めるものは? という質問には、笑顔で次のように答えてくれた。「農業は最高の職業だから、社員には他業種に負けない誇りを持って欲しいし、その家族にもうちの社員を誇りに思って欲しいんです。それで、『社長と出会って、農業をやって良かった』って一言が聞けたら最高やね」

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